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『職人と遊戯』
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25年2月、ニューメキシコ州コチティ プエブロにあるCippy Crazy Horse(CZH)宅を訪ねた。
車から降りるとリズミカルな楽器音が聞こえてきて、行き交う人々の装いが見るからに普段着とは違う。家の中に入ると、CZHの足下はインディアンモカシン。息子Waddie(WCH)は不在だが、2人の娘が生家のキッチンで忙しく支度している。奥のリビングにも親戚らしき人達が大勢集まっていて、その中に奥様Susanを見つけると、
「まさか、あなた達が来るの今日だったのね!」
なんと、ハレの村祭りの真っ最中だった。
“こんな日に他所者、ましてや日本人なんて村に入っていいのか?”
窓越しに外の広場で披露されているダンスを気にしているとCZHが、
「もうそろそろ終わる頃だ、せっかく来てくれたんだから外で観たらいい」
貴重なダンス見物の後で食事をご馳走になり、離れのスタジオに案内された。奥の作業台で、名工であった亡き父Joe Quintana(JHQ)が使っていた道具を見せながら一家の代名詞‘ロングビーズ’の制作工程を丁寧に説明してくれた。
「父から受け継いだまま何も変えていない、最近Waddieにもそのまま伝えているんだ」
いつも愛嬌たっぷりのCZHだが、この日は言葉の節々からジュエリー職人家系としての自負、誇りがいつも以上に伝わってきた。話を聴きながらバケツの中のスターペンダントを手に取って眺めると、いつもの黄金比形状はそのままだが、スタンプで軽いアレンジが加えられていた。JHQ→CZH→WCH 技術と感性、精神が脈々と継承されている。
数日後、フェニックスのショー会場でWCHから石の付いたリングを買い取った。石を活かすデザインが得意な彼だが、今回の表現しにくい独特の色をした石について訊くと、オレゴン産‘スネークスキン・カーネリアン’。複雑な表情の石に合わせて、あえて少ない細工で仕上げてある。この辺りのさじ加減、遊びの感覚はもしかすると父親以上かもしれない。
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CZHが首から提げているペンダントのデザイン“Sunburst”は、偉大な先人Julian Lovatoへのオマージュとのこと、スタジオにて
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CZH宅訪問を含む放浪序盤、ディレクターMZOを同伴した。目的はサウスウエストの現地視察に加え、僕がちょっとした『作戦』を遊び半分で考案したからだ。MZOからしてみれば、一方的な説明と同時に台本を手渡されて、気が付いたらすぐに出番が回ってきた流れだ。
“遊びの延長が仕事になる”
どこかで聞いたような言い回しだが、遊びも仕事も同じマインドで区別していない、という人が実際にどれだけいるのか?仕事と遊びは区別するのが常識、社会人としての当たり前、というお声が2025年現在でも大多数なのが実状だろう。ビームス プラスにおいても、常識や当たり前はもちろん大事なのだが、
“本質や醍醐味はソコに潜んでいるから、‘遊び’こそ真剣に”
との代々受け継いできた教え?がある。
“服を売るために愉しみ方を伝える”のではなく、“愉しみ方を伝えるために服を売る”のが目的と行動の順序、あるべき理想だとすれば、“仕事の延長が遊びになる”よりも“遊びの延長が仕事になる”ほうが感覚として理想には近い気がする。
その辺りの個人的な後先を追及されると口篭ってしまいそうだが、日頃から四六時中遊び働いていたら、サウスウエストでちょっとした『作戦』が思い浮かび、頭が心をそそのかしてきた。
たくましい妄想を現実にするべく、ビームス プラスの‘文化的な共創’を大義に、寄り道での発見も狙い、もっとも遊びの解る多忙ディレクターを強引に取り込んでしまった。
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外では靴を履かないのにリビングではブーツを履く、野生の遊戯爺JF
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よく晴れた昼時、Jock Favour(JF)は何も履かずに庭に出ていき、作業台でブレスレットを叩いて歪みを直してから、再びリビングに戻ってきてワインの栓を抜き、ひと口飲むとソファに深く腰掛けてカウボーイブーツを履き始めた。
老練なシルバースミスは全てを気分に委ねている。天気がいいから庭に出て、まるで幼い子どもの砂遊びのように作業に没頭、喉が渇いたら飲みたい物を選んで......赴くままの様子は純粋に遊んでいるようにしか映らない。
すると、ジュエリーの入ったポーチを出してきて、
「そっちで適当に広げてくれ」
テーブルにタオルを敷いて並べたら、目ぼしいブツをピックしていく。値段を訊いて明細書に記入したら、電卓で計算してJFにチェックを促す。クレジットカードの支払いもこちらでセット、レシートを見せて完了、この一部始終でJFはソファにもたれたまま身動きしない。Favour邸での取引業務は、ほぼ弊社によるセルフサービスだ。
自宅でジュエリーを作って遊んでいると、はるばる日本から買い手が訪れて、一方的に好みの物を選んで支払って、梱包まで済ませて持ち帰っていく。現代のネット販売業を鼻で笑うほど手間が要らず、遊びの極意と呼べるほど理にも適っている。
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JRの愛息(生後7ヶ月)の左手首にはビンテージの3個石ブレスレット、新米父親として抜かりなし
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Jesse Robbins(JR)のスタジオで今までにないデザインのペンダントを見つけた。瞬間的にビームス プラス衆の喜ぶ顔が思い浮かんだ。ピックアップが終わると、
JR「なんで他のペンダントを選ばなかったの?」
コ「今回はこのペンダントの経緯が気に入ったんだ。もちろん他のペンダントも素晴らしいし、普通なら先に選ぶと思う」
今回はワイヤーブレスレットを数多く受け取ることができた。彼好みのグリーンがかったターコイズが各種ワイヤーにセットしてあるのだが、その中でもトライアングルワイヤーの中央部分をハンマーで叩き潰し、フラットにした上にターコイズを乗せる手法にハマっていたらしい。このデザインは石を際立たせるのに効果的だが、ハンマリングが強すぎるとクラックが入ってしまうのが制作上の難点だ。今まで何人かのスタジオを拝見した経験から思うのだが、オールドスタイルにおいて失敗しないシルバースミスが名人、なのではない。叩いて攻めるからクラックが入るし、クラックを恐れず攻めてこそ本格派の職人だ。たまにスタジオで放置された‘攻められすぎて’ヒビ割れたブレスレットを見かけるが、妙に作者の色気が濃かったりもする。
「真ん中にクラックが入ったから、とっさに叩き割ってペンダントにアレンジしてみたんだ」
JRは少し照れながら説明してくれたが、偶然が生んだ愛嬌というか遊び心が強く感じられた。最近のJRは子どもが生まれたことも影響してか、以前よりもデザインの幅、自由度が広がったように感じる。無意識に遊びを取り入れる余裕を持ち始めた彼のジュエリーの、ビームス プラス衣料との相性の良さを考えると、早く次の制作を観たくなる。
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[左の上部]と[右の下部]が繋がっていたブレスレット→切り離して2点のペンダントに変更
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現地で‘遊び上手’なジュエリー職人から良質なブツを受け取ってくるのが放浪での重要な務め、と改めて肝に銘じるこの頃、個人的には、遊びが目利きに繋がっているのか、遊んでいると見落としているんじゃないか、冷静な振り返りも遊びの合間に必要じゃないのか、と少し自戒しつつ、大量のジュエリーにまみれた事務作業の合間に拙筆ながら綴った次第です。
「つべこべ言ってないで、ジュエリー画像だけ早く見せろよ」今にも強いお言葉を浴びせられそうですが、そこはどうか焦らず興奮せず、フェア開催各店で‘遊びの賜物’をゆっくりとご覧ください。
放浪と遊戯
コヴァ ヤジー
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開催店舗・期間
① ビームス メン 渋谷:7月4日(金)~7月21日(月・祝)
② ビームス 神戸:8月2日(土)~8月11日(月・祝)
③ ビームス 梅田:8月16日(土)~8月24日(日)
④ ビームス 博多:8月30日(土)~9月7日(日)
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