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第67回 バックパッカー ベトナム編11 「ニャチャンからクイニョンへ -峠越えの狂気と、水田の女性たち-」 |
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ニャチャンののんびりとした、そして少し「地雷原」のようなビーチを離れ、相棒のミンスクとともに再び国道1号線を北へ向かった。次の目的地は、約220キロ先にある中部の港町クイニョンだ。ホーチミンを出発してから数日、サドルから伝わる容赦ない振動にもすっかり身体が適応し、旅はさらに北を目指す。
ニャチャンを出発してしばらくすると、風景は瑞々しい緑に包まれた。国道沿いには、見渡す限りの水田が広がっている。旅の記憶に強く刻まれているのは、そこで黙々と農作業に励む「女性たち」の姿だ。頭にはお馴染みのノンラー(すげ笠)を被り、泥に足をとられながらも深く腰を曲げて働く彼女たち。不思議なことに男性の姿はほとんど見かけない。ベトナムという国において、女性がいかに勤勉で、社会の屋台骨を逞しく支えているかを、そのシルエットが雄弁に物語っていた。
緑豊かな田園地帯を抜け、フーイエン省とビンディン省の境界に近づくと、国道は再び牙を剥く。山を越える険しい峠道、クモン峠だ。終わらない坂とヘアピンカーブの連続。ガードレールもない急勾配の道を、1速、2速でじわじわと登っていく。ここで目撃したのは、まさに常軌を逸した光景だった。
日本からの払下げと思われる、かつて日本の観光客を乗せていたであろう大型バスが、元の「◯◯観光」といった文字を残したまま、なんとドリアンを満載に積み込んで爆走していたのだ。バスがそのまま大型トラック代わりに使われているそのありさまに、現地の圧倒的な生活の知恵と、「使えるものは何でも使い倒す」というタフな精神性を見せつけられた気がした。
だが、そのタフさが暴走に変わる瞬間も目撃した。スピードと重量オーバーにより曲がりきれず、横転しているトラックを数台、目の当たりにしたのだ。崖下に転落する危険と隣り合わせの難所。俺は125ccのミンスクで、エンジンの音とクラッチの感覚に全神経を集中させ、細心の注意を払いながらその残骸を横目に走り抜けた。
険しい峠を越え、陽が西に傾き始めた頃、ようやく潮の香りが色濃くなり、目的地クイニョンの街に辿り着いた。ニャチャンよりもさらに素朴で、時間がゆっくりと流れているような港町だ。宿に荷物を放り込み、相棒を停めて街を歩いた。目的は、この街の外れにある古代遺跡だ。
緑に覆われた小さな丘のふもと、周囲を住宅に囲まれるようにして、チャム遺跡「双子塔」が佇んでいた。古代チャム王国が遺した、2基の赤茶色のレンガの塔。観光客の姿もなく、ただ時の流れだけがそこにあるような、圧倒的な静寂。ホーチミンの巨大な渦のようなロータリーやデタム通りの喧騒とは、全く異なる空気が流れていた。
その夜、港近くの屋台で、氷水が入ったバケツから無造作に引き抜かれた地ビールを煽った。キンキンに冷えているわけではなかったが、ドリアンの匂いが漂う峠を越え、火照りきった身体には、その生ぬるささえも極上のスパイスだった。
あのクイニョンの静寂と、双子塔の神秘的な佇まい。そして、横転したトラックを横目に峠を越えた日の強烈な余韻は、相棒が吐き出していた2ストロークの青白い煙のように、今も俺の記憶の奥底でゆらゆらと漂い続けている。
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